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今日絶対映画見に行こう。
言い出したのは彼のほうだった。
お互い以前から、行きたい、行きたい、と言ってはいたのだ。
何見る?
アレがいい。
コレは?
ソレはレンタル始まってからでいいから。
そんな会話をお茶請けにしているうちに、いつも見たいものを逃し続けていたのだった。
「だから、今日は行こう?」
電話越しの声はハキハキしていて、今にも外へ飛び出して行きそうだった。
それをまぁまぁと宥めるのは、彼の役目。
「別にいいけどさ、何見るわけ?」
ちなみに青年が観たいのは。
今、しきりにコマーシャルが放送されている、とあるファンタジー映画。魔法とかお城とかありきたりなものだけれど、明らかに自分の生活圏にはない、非日常的な世界が味わえる映画が大好きだった。
電話の向こうは、うぅんと唸っている。
「あのー、ほら、なんて言ったっけ、魔法の」
「!」
魔法というキーワードに、ぎょっとした。
「アレだろ、魔法と城が出てるベタなやつだろ」
ズバリと言い当てる。
「あぁ、そうそう、それ!」
彼の声音が明るくなる。
「もしかして、同じの見たいって思ってた?」
「うん、今一番見たいって思ってたやつ」
電話越しにクスクス笑う。
「うわぁ、俺ら、ホント以心伝心だなぁ」
嬉しくてたまらないという様子だった。
「じゃあ、いつ見に行く?」
具体的なプランに移行しようとすると、ちょっと待って、と言って喋るのをやめた。電話越しに、ガタガタと音がする。
「あったあった~、映画の時間割」
紙をガサガサと広げる音。こちらも、スマホに指を滑らせる。劇場案内のアプリはすぐに開ける場所に置いている。近々の上映予定は、と。
「えーっと……あ、あった」
「こっちも見つけたよ」
「ホント? 何時?」
「一番早くて10時半かな。そっちは?」
「こっちは10時15分から。大体同じ時間だね」
「そうだな。いつ行く?」
「んー、いきなりだけど、明日とかは? 予定ある?」
「特にないね。じゃあ、明日にしようか」
「うん、じゃあ、明日ね」
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