The Movie(一話完結)

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「そんなことないよ、俺だって変なこと言ったから」 「そんなこと……」  声を潜めているのも煩わしくなって、彼は咳払いした。 「俺はお前がずっと好きだから。遠くに居たって、いつも気持ちだけは傍に居るつもりだから」  思いのほか大きな声で、彼の周辺に居た人々を振り返らせた。  視線を感じてはいたものの、彼にはそれを気にする余裕がなかった。気にするつもりもなかった。  今は周囲の好奇の視線よりも、電話越しの大切な人のことのほうが気になって仕方なかった。 「ばか、声大きい!」  電話越しでもさすがに異変を感じたらしい。彼は意に介さない。 「俺のことはいいんだよ、とにかく、お前が大事なんだから。な?」  またしっかり言う。二言目となると、周囲の視線も大して強いものではなかった。 「わかった、ありがとう」  電話越しに、もう一度、鼻をすする音。 「もう、映画始まるから切るよ」 「うん、俺もそろそろ中入るし」  じゃあ、と言って電話を切る。  青年の周りにできていた好奇な視線は、人の波に飲み込まれ、電話を切る頃にはなくなっていた。 「さて、行かなきゃな」  館内アナウンスが流れる。一緒に見る映画も、館内入場が始まっている。 (あとで、いっぱい電話しよう)     
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