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アプリを閉じると、光を失った携帯の液晶画面は黒い鏡になって、春乃の顔を映しだした。眉間に深いしわが寄っている。春乃は、自分がこんなけわしい顔で真由紀とやりとりをしていたのだと気づき、ぞっとした。
「どうしたのー? 真剣な顔しちゃって」
向かいのデスクから、二年先輩の斉藤舞がたずねてきた。舞は、木の実のようなくりっとした目をしている。体つきも小柄で、可愛いリスのような印象だ。今日は明るい茶色の髪を、首の横でフリルのシュシュでたばねている。大柄でぽっちゃり体型の春乃と並ぶと、見事な凸凹コンビになる。
「なにかよくないこと?」
舞は声をひそめてたずねる。春乃はちらりと周囲に目をやった。営業二課のフロアに自分たちしかいないのを確認する。男性社員は連れだって社員食堂へ行ってしまった。先輩に話すなら今だ、と思った。
「大学時代の友達からなんですけど。今、休職して療養してるんです」
「療養? 病気なの?」
小柄な舞は、椅子をデスクにひきよせて前のめりになった。パソコンのディスプレイの谷間に顔を出して、ひそひそ話す。
「それがどうも、うつ病らしくて」
「それは大変ね」
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