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ーー私は必死に逃げていた。
振り向くと、すぐそこには爛々(らんらん)と目を輝かせる恐竜の頭があり、大きく開いた口内に鋭い牙がびっしりと並んでいるのが見えた。今にもがぶりと噛み付かれそうで、冷や汗が流れる。
巨体に見合わぬ速さで迫り来る灰色の恐竜に、私は追いかけられていた。
もちろん、現実ではない。
VR(仮想現実)と呼ばれるゲームの中での話だ。
「あっ、しまった・・・・・・!」
特徴的なふたこぶ岩の横を走り抜け、私ははっと気が付いた。焦るあまり、曲がるべき場所を通り過ぎてしまっている。
大失敗だ!
だけど、引き返すのは無理だった。
すぐ後ろまで迫る恐竜の足音に追い立てられて、私は足を止めずに走り続ける。
そもそも、今日は最初からミスばかりだ。
今回の目的はクワトルという名の大型昆虫の討伐だったのに、そのついでに採取をしようと山頂に登ってしまった。
今日が火の日で、この恐竜ーータラントスの出没する日だということをすっかり忘れて。
・・・・・・珍しく早起きして軽くゲームでも、と考えたのがまずかったかなぁ。
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