夏が近くなったら、よんで下さい。

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 曲は、DJの声にほとんどかき消された上にすぐにCMに入ってしまって、全てを聞くことは出来なかった。  何の曲だったろうと考える間もなく、彼は鞄の中を漁っていた。  遅刻しそうで教科書を乱暴に突っ込んだ鞄の中に、同じように乱暴に突っ込んだウォークマンが入っていた。  マイベストと称して、先日ツタヤで見つけたその曲を吹き込んだばかりだった。  しかし、そこは彼の一人暮らしのアパートをそのまま凝縮したような鞄である。  簡単にウォークマンが取り出せるとは思っていなかったが、それにしても出しにくい。  いつもなら、適当にガチャガチャとかき混ぜてみれば取り出せるのに、今日はなかなか出てこない。  思わず鞄の中を覗いてみたら、それはそれは酷い有様だった。  コードと教科書が複雑に絡み合っていて、一度中身を全部取り出してみないことには分離不可能な状態だったからである。  実家で飼っている犬が、鎖が外の柱に絡まって鳴いていたのを思い出した。  ちょうどそんな感じ。  そういえば、奴も元気にしているだろうか。  うっかりまたトリップしそうになったが、地元にはないコンビニの名前を窓の外に見て、現実に戻ってきた。
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