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えっ、と小さく驚いた悠希を促して彰吾が歩き始める。
「昨夜も馴れない接待で疲れたでしょう? 早く移動してゆっくりしましょう」
片手に自分と悠希の荷物を軽々と持ち、まるで女の子のように彰吾にエスコートされて悠希は慌てた。
「相原、バッグは自分で持つから……」
肩が触れ合うほどに近いの悠希の戸惑う表情を見下ろして、彰吾は気づかれないように含み笑いをした。
***
「……こっちは全然雪が降っていないなんて詐欺だ」
悠希はまだ納得がいかない様子で小さな文句を呟いた。東京とは違い、まだ柔らかな雪が覆う歩道を足元に注意しながら彰吾の背中についていく。やがて札幌駅近くのホテルに着いた悠希は、その予想に反した豪奢なエントランスにしばらくその場で立ち尽くした。フロントでの応対を終えて戻ってきた彰吾に、にこやかに立つ周囲のホテルスタッフに聞こえないように小声で問いかける。
「相原。ここは結構高そうなホテルだけど、大丈夫なのか?」
出張の際の宿泊費の上限を気にした言葉に、
「大丈夫ですよ。もう時間もないですし、フロントに荷物を預けて飯に行きましょう」
「時間もないって? それに俺はまだチェックインが済んでいない……」
「まあまあ。ほら、主任、早く荷物を。俺は腹が減って死にそうなんです」
先にチェックインを済ませた彰吾は半ば強引に悠希のバッグを奪うと、控えていたホテルスタッフに手渡した。空港からの主導権を握られて、悠希は彰吾の言うがままに渋々従う。
「ちょっと大通公園のほうまで歩きますけど、お奨めの店があるそうです。コンシェルジュに予約を取ってもらいましたし、また雪が降り始める前に行きましょう」
彰吾が悠希の背中に手を添える。周りの視線を気にしながらも、いってらっしゃいませ、とホテルスタッフに見送られて悠希は雪の上がった夜の街へと二人でくり出した。
***
コンシェルジュが予約をしてくれた店は洒落たイタリアンレストランだった。間接照明が柔らかく照らす店内を店員に促されるままに進んで、大きな窓際のテーブルへと二人向かい合って座る。
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