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朝。
いつものようにお前が起こしに来るのを待っていたら、
俺はもう、衝動を押さえられなかっただろう。
それは出来ない。
出来やしない。
何故かって?
だって俺は誓ったんだから。
戦地でヘマをやらかした俺を庇って逝った彼の人が、いつも肌身離さず胸ポケットに偲ばせていたスナップ写真の無垢な笑顔。
娘にはずっと側に居てくれる家族をと。平凡でも、決して揺らがない幸せをと。
俺が父親の代わりになって、一緒にいることが叶わなかったあの人の最期の願い、必ず叶えてやるってさ。
それが君から父親を、父親から君との時間を奪ってしまった俺のせめてもの贖罪だと。
アイ。
確かにそれは、俺にとって一番堪える脅迫だ。
と同時に、鉄壁のお守りだ。
絵葉書を出し続けるために、俺は絶対に死ねなくなった。
アイ。寂しいか。
俺も___寂しい。
いつか心の整理がついて。
君が赤ん坊なんか抱いてさ。ヒョロッとした優男のとなりで幸せそうに笑うのを、穏やかな気持ちで見つめられる気持ちになったなら。
そうしたら、真っすぐに君に会いに行こう。
それまでは決して命を粗末にしないから。
だからどうか、もう少しだけ待っていて欲しい。
もう少し、
あともう少しだけ__
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