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なんだ、お前。
もう忘れちゃったのか?
『父親の命日とお互いの誕生日。記念日は何があっても一緒に過ごす』
ってのはさ、唯一、お前が俺に言った我儘だったんだよ?
けれど、その回数を重ねる度にお前はどんどん綺麗になっていって…
俺は恐れるようになった。
お前を引き取ると決めた日に、自らに架した戒めを、自分から破ってしまうコトを。
お前には意外かもしれないが、俺達兵隊はなあ。
普段、徹底した現実主義の中に放り込まれる分。
人一倍、柔らくって深い、優しいものに憧れる気持ちは強いんだ。
渇望してると言ってもいい。
けど俺は……
綺麗な生き方をしてきていない。
俺は、血と罪で穢れた身体で、お前を汚したくはない。
たとえそれが
お前の望みだったとしても。
自信がないんだ。
お前の生涯の幸せを引き受けてやれる自信がさ。
保護者として。
“娘” をそんなクソヤローには託せない。
だが一方で。
男として、
“君” をどうしてでも征服したい。
抱えた矛盾を整理しきれないまま、夜が明けて。
とうとう俺は、お前の前から逃げ出した。
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