秋冷

58/96
51人が本棚に入れています
本棚に追加
/308ページ
◆ 是豪の指示で、すぐに松千代が持仏堂に担ぎ込まれた。 澄慧が寝室としている間の隣の、一番奥まった間がもっとも静かであるため、そこを松千代の療養の間とした。熱が上がり朦朧とし、光を眩しがったため、もともと薄暗い間にさらに雨戸を閉め、松千代の目に障らぬようにした。 城に上がる医師は、京で修行した山岡芸庵(うんあん)で、門下の者に指示しながら、己は二の郭の病人と松千代の両方を診ている。澄慧はその芸庵の指示を受け、松千代の看病に当たった。 松千代は高熱が続き咳が出たが、やがて赤い発疹が全身に広がった。苦しそうな呼吸の音に、澄慧は、僧ながら懐疑的な仏にも縋る気持ちになっていた。 松千代の額に当てている濡らした布も、僅かな間に熱くなってしまう。大量に汗をかいているため、芸庵は、薬湯と共に人肌に温めた白湯を用意させたが、高熱に浮かされた松千代はむせてしまい、飲むことができない。このままでは衰弱し、体が保たないであろうと思われた。 「芸庵殿、いかがいたしましょう。」     
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!