与太郎

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 行商人、薬売りと別れたのち、川の水にてまずは三粒飲む。里へと下りて田へ向かい稲植える老人へ声をかける。おおいおおいと呼びかけ、五度目の声掛けに老人ようやっと曲げた腰を伸ばす。老人、何事かと問えば、行商人、一握りの山菜と握り飯を交換しろと言う。老人、訝しがり断る。行商人、世にも珍しい山菜だと伝えれば、老人、興味を持ち行商人のもとへ近づく。嘘偽りなき心地にて一握りしかない山菜を健康長寿の草と説き、さらに百年に一度の賜物と言えば、老人、急いで老婆に大量の握り飯を用意させ、山菜と交換する。行商人、老人へ栄えている方角を聞き、行くは南西と定めたり。握り飯を頬張りつつ町を目指す。  二日かけて町へ着き、まずは茶屋にて団子を食す。茶をすすり沢庵漬けを食みしばしの休息とす。行商人、暇したのち茶屋の看板娘へ銭を落としたと申したところ、看板娘、たちどころに青ざめ行商人の身を案ず。行商人、かごの中より丸い石ころを持ち、しばらく預かってほしいと申し伝える。看板娘、なぜと問えば、行商人、己の身代わりと言う。必ずや代金を払うための証と言う。看板娘、頷き、行商人を見送る。  無一文の行商人、次に盗人を探す。飲み屋から渡りに渡り町で有名な盗人へたどり着けば、儲け話として茶屋の看板娘が持つ丸い石ころを盗めと依頼する。盗人、事情を詳しく尋ねるが、行商人、どうしても教えられぬと首を振る。盗人、食い下がり尋ねるので、行商人、丸い石ころとは即ち宝玉だと小声にて話す。石砕けば玉を出せるのだと言う。疑う盗人。行商人、ならば他を当たると踵を返したり。盗人これを慌てて制す。行商人、いつ動くのかと問えば、丑の刻だと答えたので、連れて行くよう頼めば、仕事にならぬと諌められる。行商人、あいわかったと答え盗人と別れたのち、岡っ引きの所へ行き、盗人のことを話す。岡っ引き、これを信じ、丑の刻に茶屋へと駆けつける。盗人、敢え無く捕らわれ、行商人、町の長より多大な報酬を受け取り、茶屋へ支払いを済ます。  行商人、口があれば食い扶持に困らぬ、と人知れず高らかに笑う。茶屋の看板娘のみならず両親へも取り入り安住し、遊び歩くも波風立たず、生まれもつ強き身体は風邪を知らず、くしゃみも知らぬ。行きずりの薬売りに感謝の念を抱くも、返すことができず、それもまた良しとし、口笛吹きて町を歩く。
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