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椎名はいつも、とにかく細い子を好きになる。服装としては露出度の高い子が多く、形容するならギャルだ。比較的落ち着いている椎名では物足りない女が多いのだろう。真面目で堅実なのに、なんとも皮肉な話だ。偏見という名の感染症にみんな侵されている。見た目でものを判断し、中身を知って勝手に離れていく。それは外見で彼女を選ぶ椎名も同じこと。そういう病気なのだ。片目を失くして、見えるはずのものに勝手に蓋をする。自分が知っている自分と、他人から見える自分のギャップに、彼も悩んでいるのだろう。 「まぁ、お互い合う相手が見つかるといいよね」 上手くまとめるように私がそう言うと、もう話題は流れていった。 合う相手など見つからなくともいいのだ。見つかれば、それはそれで幸せだろう。どちらでも構わない。自分の居るべき場所、居たい場所をそこばかりに望むのは、つまらないことだ。 椎名の悩みは私の中では些末なものだった。 週末がやってくると、私はもう一つの仕事であるラウンジに出ていた。少し落とした照明と、それなりの地位のありそうなお客が店内の雰囲気を作る。元は、知り合いに人がいないらしいから出てあげてくれないかと紹介されたお店だったが、やってみると勉強になることが多く、今は自分から進んで仕事に出ていた。新しい目線から接客を学び、新聞やニュースをあまり見ずとも人の口からそれらを知ることができた。本当は物事を知っている上で会話をすべきなのだろう。それが求められる職場ではあるだろうが、私はこの仕事のために何かを学びたいわけではない。働きながらに何かを得られるというのは素晴らしいことだ。有意義で、効率がいい。 「君は、どうしてこの仕事を?」 そう聞いてきたのは、ここ最近右肩上がりの中小企業の管理職をしているという男性だった。それが本当かどうかも分からないものに興味などない。というよりも、人の肩書にもあまり興味がなかった。 「ほかにも仕事はしていますよ。ここでは沢山の方に会えるので、人生勉強の一環です」 この人には、多くを語らない方がいい。それはこの仕事をしていて学んだ感覚だった。 「金…というわけではないのか、面白いね。私といれば、君はもっと自由に好きなことをできるだろう。どうかな?」
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