5/8
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
ほら。この人は、私の足元を見たがっている。手元に置いて、金銭面を補助すると言いながら私を縛ろうとする人種。私の欲する自由をはき違えている生き物。 こういう人に会うと、物寂しさを感じる。この人たちは知らないのだろうか。どうしたって渇望してしまう、胸を焦がすあの熱情を。 「足りないものは自分で掴むから楽しいんです。まだまだ、子供なんです」 そうして相手が不快にならないように話題を切り替えた。 彼の目に映る私は、きっと理知的で奥床しいのだろう。それは私のごく一部に過ぎない。六面体などでは収まらない私の、ほんの一面でしかないのに。 はびこる病原菌は、地位も名誉も関係なく人々の心に巣食っていく。彼のシリョクはいくつなのだろうか、と心の中でつぶやいた。見えないものを見ようともしないその目が、私は一番嫌いなのだ。 お酒の席と、男と女。見目麗しいとまではいかなくとも、自分に相応しい、あるいは都合の良い相手を求めること。女は飾りじゃなく生き物であるということを、どうして分からないのだろう。条件で愛のやり取りをできると思っていることが甚だしくてならなかった。 人は目の前にいくら積まれたら妥協できるのかという話をしていたお客もいた。もし、1億積まれて、体を売っても。心が死んでしまったら、人はもう生きてなどいないというのに。 「お、そうか、週末は出勤だと言っていたね」 次に付いた席は、たまに顔を合わせるフランクな男性だった。 「お久しぶりです、近藤さん」 彼は、ここでは珍しく趣味の話のできるお客だ。 昔から興味のあるものの一つに、天体観測がある。宇宙を模したように夜空を彩るそれらの話は、私の周りでもできる人は少ない。小学生の頃に音楽の授業で歌った、“ほしまつり”という曲から星座に興味を持った。父が博識な人だったお陰で、星座の探し方を教えてもらった。あの頃にいた場所は、もっと空が綺麗だったのに。そんな話も、彼とだからできることだった。 「この間、新しい望遠鏡買っちゃったんだよね」 嬉々として話す近藤の顔を見ていた。 星座だけでなく、望遠鏡の仕組みについてまでも彼は教えてくれる。それを知ってどうするわけでもないことを、それでも知らないことを教えてくれる彼の話は興味深かった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!