母の事について

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母は、雑音が嫌いだった 雑音と言っても母にとっては日常的に起こる 生活音さえも雑音に聞こえるようだ。 包丁で物を切る音、廊下を歩く足音 水道から流れる水の音、隣人の声 道路を走る車の音、母は、それら全てが 雑音に聞こえるようだ。 そして、僕の声も雑音に聞こえるようだ。 ……………………………………………………………………………………… 僕の世界はひどく狭い、部屋か外か 基本的に家が僕のメインの世界 外は数メートルの世界しかない。 母は、僕が外の世界を知る事を酷く怖がっていた。 母は、酷く美しく、酷く脆い。 母は、白い陶器のような肌に血で描いたような 白に映える、真っ赤な唇、鼻筋は通っていて 手足はスラっと長く、それは美しい。 とても、40代には見えないだろう。 僕は、母が好きだった 優しくて、でも、なによりも 酷く脆い母を愛していた。 その感情は、一般的に言えば異常。 母は、きっと僕の気持ちに気づいてから おかしくなったのだ 最初は、少し僕を見ると怯える程度だった。 しかし、暫く経ってから母は 全てに怯えはじめた 僕が発する声、音に。 それから、母は部屋に篭もるか ずっと外に出るかの生活を暫く続けた。 僕は、母を母として好きでなく、一人の女性として 愛してしまってから生活は変わった。 母をいつしか部屋に閉じ込める、いや 監禁する日々が始まった。 母は、次第に音を怖がり具合が悪くなっていった。 僕が母に近づけば、母は酷く怯える。 音がなくなった静かな部屋に…。 僕は今日も音を添える。 「母さん、愛してるよ」                  END
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