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「これは、どういう事だよ。付き合うなんて冗談だよな?」
ふざけた態度を取りつつも、篤司の目が全く笑っていないのに匠はちゃんと気づいていた。
ずっと隠しているわけにはいかないのは分かっていたが、匠のは普通の恋愛じゃない。だから、折を見て匠からちゃんと伝えるつもりだったのに。
匠は険しい表情のままの篤司を見て、急に怖くなった。
篤司とはずっと一緒にいたから、いつの間にか何をしても許して受け入れてくれると甘えていた。けれど、そうじゃない事にやっと気がついた。
篤司に嫌われたかもしれないと思うだけで泣きそうになる。篤司は育哉とは違う意味で、匠にとっては無くしたくない大事な人だから。
とにかく今は正直に言うしかない。
匠は緊張のあまり声が震えた。
「……冗談じゃないよ。僕たち、付き合うことにしたんだ」
匠の答えを聞いて、篤司の目がますます細まった。
「来いよ」
篤司は匠の腕を掴むと、学校とは反対方向に歩きだした。
「あ、篤司、どこに行くの?」
「話があるんだ。黙ってついてきて」
無言で10分ほど歩いて茶色のマンションの前に来ると、篤司は躊躇なくエントランスに入り、部屋番号を入れてチャイムを鳴らした。
「……はい」
しばらくして寝起きのような不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「俺。開けて!」
「えっ、篤司?お前、学校は?」
「いいから開けて。あ、匠を連れてきたから」
「匠君を?……しょうがないなぁ。どうぞ」
扉が開くと、篤司は匠を引っ張って入って行く。
篤司の剣幕に押されて黙って従っていた匠は、2階の知らない部屋のドアを見てちょっと怖くなった。
「誰の家?」
「まさ兄だよ」
「まさ兄って、従兄弟の?」
「そう、正和(まさかず)兄ちゃん」
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