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光という風
「ミチル。この前はありがとう。おかげで握手会、無事に出られたよ。」
と、菜奈は名古屋市科学館の展示を見ながらミチルに言った。
ここのプラネタリウムには世界に誇るべき立派なドームがあるのだが、二人が見に来たのは、ドームの方ではなく常設のコーナーのほうだ。そこには宇宙の不思議について、様々な展示があり、二人はそれをゆっくりと見てまわっているところである。
菜奈とミチルはひとつの小さな展示の前で足を止めた。
そこにはプリズムが置かれていて、一筋の光が当たっていた。
プリズムを通り抜けた光は綺麗に七色のスペクトルに分かれて、反対側の壁に小さな小さな虹を浮かび上がらせている。
菜奈はミチルに聞いてみた。
「ねえ、ミチル。光ってなんなのかな?」
ミチルが答えた。
「せな…。光は風なんだよ。」
「風?粒子の動きってこと?」
「違うよ。風は風なんだ。"光という風"なんだ。」
「"光という風"…それってどういうこと?」
ミチルは、
「こういうことだよ。」
といって、菜奈の背中に手をまわしてそっと彼女を抱きしめた。
菜奈は自分の心臓がとくんとくんと高まっていくのを感じたが、そのままずっとミチルのあたたかな胸のなかに自分を預けていた。
(以下後編へ続く)
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