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「……昔、一緒に星見に行ったの覚えてる? 夜中にドライブとか言って――」
「清里だろ」
即答して笑う彼の横顔。
彼の向こう側の窓の外を、対向車のライトが同じリズムで通り過ぎていく。
助手席が私の定位置になってもうずいぶん経ったなと、ふと思った。
「……星、きれいだったね」
「あぁ」
遠くなりつつあるあの夜をぼんやりと思い出す。
大学2年の冬。清里。
ハタチになったばかりだった。
あの夜が始まりになったというとロマンチックに聞こえるけれど、今日までの日々は決して平坦ではなかった。
遠い記憶の断片は、寄せ集めていくと不思議なほどふつふつとあの夜の気配をよみがえらせる。
いくつもの夜を越えて、時間を重ねて、いつの間にか遠ざかっていたあの日。
あの時、私は――
フロントガラスの向こう側で、信号が黄色から赤に変わった。
ゆっくりと車が停車する。
カチカチと右折の合図を出した音が静かな車内でリズムを刻む。
「……あの時」
ふいに、彼が言った。
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