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『新進気鋭の天才ピアニスト。先日のコンテストではクロエを抑えての金賞獲得!!』
そこには、驚くべきコメントが書かれていた。
「翠さんが、クロエさんに……勝った?」
決して、翠がクロエに劣っていると思っていたわけでは無い。
翠の演奏も充分、奏の心に響いた。
しかし、翠は奏の、そしておそらく響も知らないところで確実に腕を上げている。
響が負傷しピアノから離れている今、日本で最も世界最高に近いピアニストは、おそらく翠なのであろう。
「だから……大トリなんだ……。」
では、何故セドリックは1番手なのか……
そこが奏の気になるところであった。
ウイーンで聴いた、ストリートライブ。
短い時間ではあったが、多くの観衆を虜にしたあの演奏。
思い出せば出すほど、1番手という演奏順が気になった。
奏はセドリックの紹介ページも開く。
『過去3回のコンクールは、気が乗らないと途中退場。今回は最後まで彼の曲を聴けるのか……?』
「あはは……そう言うことか……。」
響から聞いた、セドリックの気持ちの変動。
気が乗らなければ弾かないし、気が乗れば誰よりも素晴らしい演奏をするというセドリック。
「今回は……何か思うところがあってエントリーしたのかな……?」
気が乗らないのであれば出場しない、という選択肢もあるのだが、セドリックはいったい何を求めてコンクールの出るのか、それが奏には気になった。
「間もなく、パリ国際コンクールを開催いたします。まずは……。」
プログラムを読むのに夢中になっていると、開会のアナウンスが控室のスピーカーから流れた。
「あ、いけない!そろそろ準備しないと……!」
衣装、そしてメイク道具の入ったスーツケースを慌てて取りに行く奏。
「あ、そうだ……。」
奏は、プログラムを再び手に取り、自分の紹介ページを開いた。
『その実力は未知数。世界最高のピアニストの出身国のピアニスト』
「あはは……ま、妥当よね……。」
無名であることは分かっていた。
逆に、その方が気持ちが楽だった。
「この評判を、コンクールが終わった後には覆してやるからな~~!」
よーし、と意気込むと、奏はメイク道具を開き、メイクを始めた。
長い審査委員長、そして市長の話が終わり……
いよいよ、コンクールが始まる。
司会者が、1番手であるセドリックの紹介を始める。
スペイン・イタリア・オランダのコンクールで金賞を獲得した経歴があるらしい。
「やっぱり、凄い人なんだ……。」
モニターを見ていると、セドリックがステージ上に現れた。
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