第34章:約束の場所へ

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『新進気鋭の天才ピアニスト。先日のコンテストではクロエを抑えての金賞獲得!!』 そこには、驚くべきコメントが書かれていた。 「翠さんが、クロエさんに……勝った?」 決して、翠がクロエに劣っていると思っていたわけでは無い。 翠の演奏も充分、奏の心に響いた。 しかし、翠は奏の、そしておそらく響も知らないところで確実に腕を上げている。 響が負傷しピアノから離れている今、日本で最も世界最高に近いピアニストは、おそらく翠なのであろう。 「だから……大トリなんだ……。」 では、何故セドリックは1番手なのか…… そこが奏の気になるところであった。 ウイーンで聴いた、ストリートライブ。 短い時間ではあったが、多くの観衆を虜にしたあの演奏。 思い出せば出すほど、1番手という演奏順が気になった。 奏はセドリックの紹介ページも開く。 『過去3回のコンクールは、気が乗らないと途中退場。今回は最後まで彼の曲を聴けるのか……?』 「あはは……そう言うことか……。」 響から聞いた、セドリックの気持ちの変動。 気が乗らなければ弾かないし、気が乗れば誰よりも素晴らしい演奏をするというセドリック。 「今回は……何か思うところがあってエントリーしたのかな……?」 気が乗らないのであれば出場しない、という選択肢もあるのだが、セドリックはいったい何を求めてコンクールの出るのか、それが奏には気になった。 「間もなく、パリ国際コンクールを開催いたします。まずは……。」 プログラムを読むのに夢中になっていると、開会のアナウンスが控室のスピーカーから流れた。 「あ、いけない!そろそろ準備しないと……!」 衣装、そしてメイク道具の入ったスーツケースを慌てて取りに行く奏。 「あ、そうだ……。」 奏は、プログラムを再び手に取り、自分の紹介ページを開いた。 『その実力は未知数。世界最高のピアニストの出身国のピアニスト』 「あはは……ま、妥当よね……。」 無名であることは分かっていた。 逆に、その方が気持ちが楽だった。 「この評判を、コンクールが終わった後には覆してやるからな~~!」 よーし、と意気込むと、奏はメイク道具を開き、メイクを始めた。 長い審査委員長、そして市長の話が終わり…… いよいよ、コンクールが始まる。 司会者が、1番手であるセドリックの紹介を始める。 スペイン・イタリア・オランダのコンクールで金賞を獲得した経歴があるらしい。 「やっぱり、凄い人なんだ……。」 モニターを見ていると、セドリックがステージ上に現れた。
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