皆川編 迷子、再び

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無言の重圧に彼女が完全に窮したところで、僕は変化球を投げた。 取引先の廊下でホテルだ裸だと騒ぐ訳にもいかないし、何より核心に即斬り込むのはもったいない。 尋問の醍醐味は追い詰めるプロセスにあり。 「何でしょうか」 「え……」 僕がしらばっくれてみせると、彼女の口がだらんと開いた。 表情に媚や色気は皆無だ。 財布が床に滑り落ちても、手は財布を持っていた格好のまま、彼女は僕の顔を見上げている。 素直な幼稚園児め。 しばらく逃げおおせた安堵に浸るがいい。 内心苦笑しつつ、財布を拾ってやろうと彼女の足元に屈んだ。
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