第一章

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躰熱い…… 視界が定まらない……俺は…… 「桜井…さん……」 綺麗な声……それは満開に咲くあの儚い花が散っていくような……あの子の声もこんなだったのかもしれない…… 周囲で何かが騒めき、軋む音がする。警戒心の強い蔓薔薇が怯えてる。 声の主は白衣を着た青年だった。栗色な髪と澄んだダークブラウンの瞳、色白の肌に薄ピンクに染まる頬が幼く見えた。 まるであの子みたいだ…… 「桜井守さん」 夢か現実か微睡む意識の中、今度ははっきりと聞こえ誰かに呼ばれているのだと目を開ける。そして蔓薔薇が威嚇しようと蔓を伸ばしていた。 「……よせ! それ以上近づくな!」 蔓薔薇がしならせ彼へ蔓を伸ばし腕を掴んだ。蔓薔薇の棘が皮膚に刺さり締め上げる。声の主はその痛みに眉を寄せ、苦痛に歪む顔で笑うと蔓薔薇に触れようとする。 「止めろ! 殺されたいのか!」 蔓薔薇が更に腕を締め上げた。激痛に耐えながら笑みを浮かべた。 「……大丈夫…俺は傷付けないよ……大丈夫…大丈夫だからあの人と話しをせてくれる?」 蔓薔薇にそっと触れ撫でる。触れた蔓から伝わる暖かい手の感触に騒ぐ植物達が大人しくなった。蔓薔薇も警戒を緩め腕から蔓を外し、彼に蔓を伸ばし頬や髪に触れる。青年は怖がらず、興味を持った蔓薔薇が蔓を伸ばし色んな箇所に触れ、安心したのか蔓を引っ込めた。蔓の先端で青年の手に触れると、青年はそこにキスをした。 「……ありがとう」 蔓薔薇の感触が私に流れてくる。滅多に信用ないはずの蔓薔薇が知りたがっている。 私以外に興味を示すなんて……この青年は一体…… 「おまえどうやってここに入った? 植物達の厳重なセキュリティがあったはずだが……」 「さすが植物博士ですね~~凄い数の種類だ。何故でしょう…俺、植物に気に入られるんです」
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