彼女の涙-2

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「前にも注意したでしょう。自覚がないと」 そうだ、制御できる。 いや制御も何も、まだそこまでいっていない。まだ引き返せる。 彼女の手首を解放し、身体を起こしながら、僕は自身に起こりつつある感情の変化を全否定していた。 彼女はまだ目をぎゅっと閉じて固まったままだ。 「あなたが寝ている間に、バッグからファイルを盗むことも可能ですよ」 彼女から目を逸らし、僕はソファーから身体を引き剥がした。 「もう遅いので車で送ります。事前のすり合わせは車内で簡単にやりましょう」 僕はそんなに簡単に厄介な感情に足を取られたりしない。 取引の条件は東条とのお膳立て。 仕事に利用できる部分は利用しつつ、双方にメリットがあるよう粛々と遂行するだけだ。 車の鍵を握りながら、僕は心の中で自分に念押ししていた。 あとから思い返せば、それはただあの感情に屈する自分を認めたくなくて、目を逸らしていただけだったのだろう。
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