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「青悟さ、」
「社長。聞きたいことがあります」
「な、何……」
今にも柾木に飛びつこうとしていた涼一郎を、正面から真っ直ぐに見つめる。射抜くような視線に怯んだのか、彼の返事は上擦っていた。
「柊二と私を会わせることを、貴方も知っていたんですか? ……驚いていたのは、怒っていたのも演技だった?」
本当は、疑問を口にして涼一郎の返事を聞く前から答えはわかっていた。
(あれはきっと本心から嫉妬していた。だがそれなら、賭けは一体いつから……)
自分の知らないことが多すぎる。柾木は全てを知りたかった。涼一郎の抱えていたもの全てを知り、理解したい。
「そんな訳ねーだろ。俺がわざわざ柊二兄さんを青悟さんに会わせると思う? そんなことをしたら、余計青悟さんを傷付ける」
不愉快そうに言い返した涼一郎は、今度こそ柾木の身体を拘束した。身動きが取れないほどの強い力だ。抱き締め返したいのに、自分の腕を上げることも出来ない。
「ちゃんと話すから。全部、ちゃんと最初から。だから今だけ、少しだけこのままで」
彼の囁くような小さな声が、震えていた。涼一郎が居る。自分のすぐそばに。
「涼一郎、腕を離して」
「……なん、で、青悟さん」
驚いてぱっと離れた涼一郎の顔が歪み、今にも泣き出しそうに見えた。手を伸ばせば簡単に触れられる距離。胸がくるしい。様々な感情がごちゃごちゃと混じり合う。
内側から込み上げる何かが、今にも爆発しそうだ。小さく息を吐き、呼吸を整える。そうして、ずっと伝えたかった言葉を口にする。
「君を愛してる。……おかえり。涼一郎」
両腕を広げた柾木の顔は、自然と微笑んでいた。
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