愛は惜しみなく、

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「上手く言えませんが、涼一郎様や奥様が何を考えていらっしゃるにせよ、それは正しいことではないのだと感じましたので。差しでがましいことを申し上げましたが、私は後悔はしておりません」 「おい、光貴。奥様に何てことを」  慌てて息子を叱る志原を止めたのは、涼一郎だった。 「いいんだよ、志原。光貴は正しい。俺たちには間違ったことを指摘してくれる人間がほとんどいないからな。むしろ有り難いよ。……だろ? ばーちゃん」 「ええ。それに志原だって、ずっと何か言いたげだったものね。……わかってはいるのよ。私は間違ったことをしている。それでもそれが私の責任で、家族を守る方法だから。……柾木さん、ごめんなさいね」  突然頭を下げられ、柾木は急いで首を横に振った。謝らなければならないのは、自分の方だ。 「いえ、顔を上げて下さい……! 私こそ、長く貴女を苦しめてしまいました。そして、きっとこれからも」  賭けに負けたからと言って、急に納得出来るものではない筈だ。思い出す度に胸を痛め、孫の未来に不安を感じるかもしれない。 「それでも、私は彼を連れて行きます。本当に、申し訳ありません」  深々と頭を下げる柾木の隣に、涼一郎が並んだ。 「ばあちゃんごめんな。俺には青悟さんだけだから。いつか認めてもらえるように頑張るから」  揃って頭を下げる二人に、彼女が微かに笑った気配を感じた。返事はなかった。立ち上がり、秘書を連れて部屋を出て行くのを無言で見送る。ドアが閉まったのを見届けて、柾木はそっと息を吐いた。
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