愛は惜しみなく、

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*** 「えっ、帰るの!? 冗談でしょ」  互いの気持ちを確認し合うような長い抱擁の後、柾木は帰りましょうかと呟いた。涼一郎は信じられないと絶句したが、自分は冗談など言ったつもりはない。首を横に振ると、彼は驚愕の表情を見せた。 「ええ!? 何でだよ、今すっげえいい雰囲気だったじゃん! やっと二人きりになれたんだよ?」  何と言われようがここに長居する気にはなれないのだから、柾木に帰る以外の選択肢は無い。 「当たり前でしょう。……だいたい貴方は、帰らずここで何をする気ですか」 「何って……それ聞いちゃう? 青悟さんからの愛の告白を聞いた俺がすることなんて、決まってんじゃん。今すぐ触りたいんだけど! 俺の我慢とかとっくに限界なんですけど!」  返す涼一郎も必死である。ここでいちゃつきたいと大真面目に語る姿を見て苦笑いを浮かべながら、柾木は恋人をじっと見つめた。 「涼一郎さん。私も早く貴方に触れたいです。……早く、帰りませんか?」  とどめとばかりに手を握ると、駄々っ子のように喚いていた涼一郎はぴたりとおとなしくなった。ごくりと喉が鳴る。 「……わかった、帰る」 「いい子ですね」  握った手の甲を、親指でそっと撫でる。途端に涼一郎が真っ赤になった。 「……なん、……だよ。ずりい。なんか青悟さん、前よりエロい気がするんだけど」 「そうですか?」  再び笑いかけた柾木の表情は、確かにそう言われても仕方のない色を含んでいた。自分でも気持ちに余裕を感じているし、何より隠さなくても良い本来の姿が顔を出し始めているのだ。 「ほら、……なんか、ほら、その顔だよ。そんな顔、俺の居ないときにしないでよ。ちょっともう、違う意味で心配になってきたんだけど」 「よくわかりませんが、大丈夫ですよ。ずっと一緒に居てくれるんでしょう?」  涼一郎がぐっと低い声で唸る。 「当たり前だろ。ほら、早く帰ろう」 「……はい」  早く二人きりになりたかった。誰にも邪魔されない、あの家で。  部屋を出ても繋がれたままの手を眺め、誰かに見られる前に離さなければいけないと思う。 (……あともう少しだけ)  人前では駄目だと拒絶出来ない自分も、きっと浮かれているのだ。
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