2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
団地の子供達
子供の頃、団地に住んでいた。
ゲームなどろくに普及していない時代だったので、近所の子供はみんな外に出て一緒に遊んでいた。
中でもよくやったのが鬼ごっこかくれんぼで、時間と、逃げたり隠れたりする範囲を決め、駆けずり回ったり身を潜めたりしていた。
その面子の中に、一人、物凄くかくれんぼの上手い子がいた。
鬼ごっこは普通に捕まるが、かくれんぼとなると絶対に見つからない。必ず、決めた時間が過ぎてから姿を現すのだ。
子供も独り立ちした歳になってそんなことを思い出たのは、たまたま団地の近くを通り、昔のような光景を目にしたせいだろう。
今時でも、ゲームばかりではなく、みんなで外で遊んだりするんだなぁ。
団地の敷地内を走り回る子供達を見て、そんな感想を抱いていたら、遊んでいる子の一人と目が合った。
「あっ」
瞬間的にそう声を発した私に、その子は、唇に指を当てて『内緒にして』という仕草を見せた後、すぐ他の子の群れに紛れて走り去った。
今のは間違いなく、当時一緒に遊んでいた、かくれんぼの上手かったあの子だ。向うも私を認識したから人違いではないだろう。
つまり、今も昔も変わらぬ姿で子供達と遊んでいるあの子の正体は…。
鬼ごっこはずっと人前に姿を現しているけれど、かくれんぼは姿をくらます遊びだから、見つからないのは当然ということか。
「今更昔のことは言わないけど、ズルはダメだぞ」
思わず漏らしたつぶやきに、どこからか、『判った!』という元気な返事が聞こえた気がした。
団地の子供達…完
最初のコメントを投稿しよう!