14人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
キグルイキグルミ
ある日タヨコは、殺されると言った。刃物で刻まれ、殺される、目の色変えてそう言って、それからたくさんの服を着始めた。
「着ないよりもましだもの、肌を見せなきゃ刃物も少しは通らない」
そんなタヨコを着ぐるみのようだ、わたしは思った。不恰好に着ぶくれて、頭にはニット帽をかぶって、見えるのはタヨコの目元だけ。タヨコとわかるのは目元だけ。
タヨコはまるで着ぐるみだ。あわれに狂った着ぐるみだ、そしてわたしの親友だった。
それから、もう何年も経つ。
わたしはタヨコの顔を見ていない。タヨコの目元しか見ていない。さて、タヨコはどんな顔だったろう、わたしは最近不思議に思う。
声はこもってわからない、そもそも着ぐるみのタヨコは暑いのか、あまりわたしと話さなくなった。
タヨコが誰だかわからない。わたしは成長し大人になった、タヨコはどんな大人になったろう、そばにいるのに見当つかず。
わたしはタヨコをじっと見る。哀れで狂った着ぐるみを見る。タヨコはこの着ぐるみだ。さて、果たしてそうだろうか?
最近、わたしは不安になる。着ぐるみのタヨコはとうに死んで、ここにいるのはただの着ぐるみ。着ぐるみのタヨコのふりをした化け物じゃないか、そんな不安に襲われる。
そもそも、タヨコなどいなかったのでは、そんな風にも思われる。
タヨコの顔を見ていない、目元は少し形が変わった。年を経て、変わっていった、本当に?
そこの着ぐるみが服を脱ぐ、その一瞬を待っている。
それが哀れなタヨコであること、願いながらわたしは待っている。
でなきゃ、ずたずたにひきさかなければ。
わたしはタヨコを待っている。
化け物退治の包丁持って、ずっと静かに待っている。
最初のコメントを投稿しよう!