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この奇妙な病が知られるようになってから約半年後、政府のえらい人が俺の元へやってきた。
「……現在、この病気の有効な治療法はありません」
「べつにいいじゃないですか、あくびするくらい」
「それが、そうでもないのです」
役人が言うことには、もはやほとんどの人類がこの【突発性他者誘因型欠伸症候群】に侵されているいるおかげで、排出される二酸化炭素の量が、看過できないレベルになっているらしい。
「このままでは森が枯れ、地球が滅んでしまいます」
「はぁ」
そんな壮大な問題を訴えられても、医者でも研究者でもない、一介のサラリーマンの俺にはどうしようもない。
「あなたは、生まれてからこれまで、あくびをしたことがないそうですね?」
たしかに、俺はいままであくびとは無縁な人生だった。
「そんなあなたにしかできない任務なのです」
なんでも、急激な二酸化炭素の増加によって荒れた地球を元の状態に戻すまで、【突発性他者誘因型欠伸症候群】の患者はすべて、専用の装置のなかで眠りにつくらしい。
眠っていればあくびをする必要はないから、適切な対処法かもしれない。
その期間は、予定では3年間。
「あなたには、装置の管理と、3年後の装置の起動をお願いしたいのです」
まるで世界の終りのような顔で懇願されて、莫大な報酬にも惹かれた俺は、その任務を受けることにした。
全世界で、人々が眠りに落ちた。
恐ろしい疫病でもなんでもなく、たかがあくびでここまでの事態になるなんて、誰が想像しただろう。
全世界の装置の状態を映しだすモニターを眺めながら、俺は大きなあくびをひとつもらした。
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