お月様

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 高層マンションの8階とはいえ、階下に視線を向けるとキヨマサは吸い込まれる気分がして嫌だ。しかし、マユミは反対に夜空に浮かぶ月と真昼の太陽に近づけるから嬉しいと喜んでいた。いい迷惑だ。高所恐怖症のキヨマサの意見を無視してのマンション購入。キヨマサはしっかりと反対をした。したにも関わらず、マユミの意見にマサトが賛成をしてしまった為、このマンションを購入したのだが、一応、支払いはキヨマサの口座からという事なので、マユミも自嘲して最上階といわず、8階のフロアにある部屋を購入した。  8階のベランダから眺める景色は壮大なものである。とくに街の夜景は美しい。それだけは認める。それでも、高所恐怖症が治るわけじゃない。  ベランダにはマサトが手すりを登らないよう何も置いていない。万が一、手すりを越えて階下に転落でもされたら悲しいだけだ。 『そうならないよう願っている・・・』  キヨマサは真っ白な月光を浴びながら夜空へむかって囁いた。  缶ビールを一口啜る。ビールの苦味と炭酸が喉を刺激する。今夜のビールはなぜか上手いと感じない。むしろ、切なさを感じる。なぜだ・・・? 「俺もお前に会えなくて寂しいのかな・・・」  不意に口にした言葉にキヨマサは照れ笑いをする。 「何かつまみが無いとビールが美味くねぇな・・・。何かあったかな・・・」  キヨマサは台所へいき、冷蔵庫の中からコンビニで買ったベーコンを見つけた。軽く塩味のついたベーコンはそのままでも食べられる。ベーコンの入った入れ物を手にして、キヨマサはベランダに戻った。     
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