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僕は駅の待合室にいた。
ターミナル駅にあるかなり大きな待合室だ。
待合室は人で溢れかえっている。
苛立っている人や、途方に暮れている人、いろんな人がいるのだが、共通しているのはみな一様に顔に疲れが滲み出ているということだ。
電車は嵐で運行見合わせ、だから乗客はここで足止めをくらっているわけだ。
スピーカーからはずっとアナウンスの声が聴こえている。
僕は待合室の一番奥の隅の方にある椅子に座っていた。
すぐ近くの壁際には焦燥しきった顔の男が座り込んで何事かをブツブツとつぶやいている。
彼は茶色のくたびれた背広に身を包み、その上から皺だらけのベージュのコートを羽織っていた。
コートは所々が雨でぐっしょりと濡れ、そこだけ濃い茶色になっている。
さっき来たばかりなのだろうか。
男の見た目は40代後半といったところだった。
白髪交じりの髪や、古い型の眼鏡に水滴が滴っていた。
男は時々語気を強めて独り言を言っていたせいで、聞きたくなくても嫌でも彼の独り言が耳についてしまった。
男は自分の濡れた白髪交じりの頭掻き毟りながら「もう駄目だ」「嵐は収まることはないんだ」などと漏らしていた。
まるでこの嵐のせいで、この世が終わってしまうみたいに。
しかし、男が取り乱すのもわからないでもなかった。
嵐で電車が止まっているのは、ここ二、三時間の話ではない。
今日でもう既に三日目なのだ。
都市の機能は完全に麻痺していたし、会社員にしろ、旅行者にしろ、ここにいる人達のスケジュールもめちゃめちゃになっているはずだ。
でもどうしようもなかった。
相手は自然現象だ。
人間の手でどうにかできる範囲を超えている。
お手上げだ。
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