bigining of the end

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 僕はさっきまで手を強く握られていた医者の格好をした男を目で探した。そいつは無表情のままじっと立っていた。確かによく見ると、あれはほんとうの人間ではなく、人間を真似て精巧に作られたマネキン人形みたいだった。 「くそ! 充にはこうなることがすべて分かっていたのか」  もしそうなら、僕がハジメを殺してハジメの人格を乗っ取ろうとしていたのもはじめから知っていたことになる。それならなぜ充は僕を止めなかったのだ? 充も僕と同じように、ハジメの人格を乗っ取ろうとしていたのではないか? そうとしか考えられない。充はハジメを守るために生まれた人格だから、充はハジメを殺すことはできない。だから、僕がハジメを殺すことを黙って見過ごし、その後で充は僕を殺して、人格を完全に乗っ取る。最初からそういう充の計画だったのか。やはり充も僕の手で殺すべきだった。しかし主人格のハジメには、充に対する悪意がまったくなかったので、僕は行動に移すことができなかった。他に選択肢がなかったので、僕はハジメを殺したすぐに、僕が描いた空想の世界に充を閉じ込めることにした。くそが! 充にはすべて見破られていたのか。
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