1択:人生には急に転機が訪れる

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「うん? わたしのこと呼んだ?」  うっすらと自分の名前を耳にしたのであろう井上が反応してくる。  井上、お前はこの会話に入るのはやめとけ。  おそらく後悔するぞ。  ここにいる全員が。 「男の話だ。やめておきな」  助平がここ一番の男らしく凛々しい顔を作ると、会話に入ってこようとした井上を制した。  いやキメ顔の無駄遣いだろ、それ。  そんな大した話はしてなかったし。 「井上さん。助平とまっつーの話だよ? だいたい察しはつかない?」 「…………あっ、そっか。そういう話?」  蕗野が井上にそう投げかけ、井上は何かを察したようで苦笑いを浮かべる。  心外な。  まぁ、だいたい合ってるけどな。 「おれらがしてたのは、井上さん可愛いよねって話だよ」  助平が蕗野と井上にそう告げる。  って、ちょっと待て。 「俺はそんなこと言ってない――」  まぁ、それはそれで間違ってはいないんだが…… 「――――――っ!」  それを聞いた井上は頬を染めながら、恥ずかしそうに体をくねらせる。  その勢いでカバンを振り回し、何度も俺を殴った。  痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!  お前はなんで俺を殴るんだ。 「な、な、な、何言ってんの。そ、そんなことないよ」  井上は俺を鞄で殴り終えると、頬を両手の平で覆う。その下で嬉しそうに笑みを浮かべていた。  全く、なんてやつだ。  気が付くと、蕗野と助平は孫を見るおじいちゃんのような遠い目を俺に向けていた。  よし、お前たちはとりあえず目を抉るから。  そのまま俺にその目を向けながら待ってろ。
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