彼女のための選択

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三名分の調書を仕上げてしまうと、僕は脇にどけていた記事コピーを再び手に取った。 東条の処分について、一番重要な決め手になる最後の段階だ。 三名の調書を書いた時点で僕の腹は決まっていたはずなのに、記事コピーを手にして僕は再び躊躇した。 どうして僕は好きな女をわざわざ手放そうとしているのだろう。 最初の夜の彼女の泣き顔が思い出された。 “大好きな人に好きになってもらったことが一度もないんです” 化粧の取れた顔で必死に仕事をする姿。 泣いた顔、怒った顔、疲れて眠った顔。 思いきり笑った顔を僕はまだ見たことがない。 空振りばかりしてきた彼女が一番望むものを手にした時、どれだけ幸せな顔になるのだろう。
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