ずっと、僕の傍にいて

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『あの、狭いですけど、どうぞ』 小さな居間に僕を招き入れた彼女は、緊張で声を上ずらせながら僕に緑茶を勧めた。 慣れていない感じが何とも微笑ましい。 しかし、部屋を見回した僕の意図を勘違いしたのかもしれない。 緊張すると言わなくてもいいことまで喋る正直さがここで災いした。 『あの、あの、自慢にならないですけど、ここに男性が来たことなんか一回もありません。皆川さんが初めてです!えへへ……あ』 まあそうだろうなと油断しつつ聞いていた僕の耳がピクリと反応した。 『誰か来たことがあるんですね』 『あ、でも、玄関だけです。インフルだったし、すぐ……』 『インフルですか』 彼女がインフルエンザになったのは学生以来だと聞いている。 となると、導きだされる来訪男性は、彼しかいない。 『東条主任が見舞いに?親切ですね』 『あ、あの、差し入れを持ってきて下さっただけで』 『そうですか』 微笑みかけると、ふわりと揺れる緑茶の湯気の向こう側で彼女が小さくなった。
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