本当は怖い賑やかなお祭り

42/42
752人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
  「おい、チビ。今、何があったんだ?」 「えっと……分かんない」  やだ。そんな困った顔しないでよ。  私だって全く分からなくて困ってる。 「今の声……」 「知ってるの?」 「……んー。私も大分前に聞いたっきりだからよく覚えてないんだけど、似てた気がするのよねぇ」  現・黄泉の国主宰神、伊邪那美命の声に。  力無く笑うオネェさんが発した名前に、周囲はシーンと静まり返った。  皆して顔が引きつってる。  ど、どーしてそんな遥か高みの神籍を持つような方が、こんなちんちくりんの小娘の口を借りたんでしょーねぇ。  あはは。あはははは。  ……気まぐれですように、気まぐれですように、気まぐれですようにっ!! 「大丈夫や」  綾芽の大きな掌がポンと頭の上に乗った。  顔をあげると、綾芽が優しい目で私を見下ろしている。  ……うん。そうだね。皆いるし。  オネェさんも。都に戻れば千早様も、奏様達もいる。  あと、ついでにアノ人も。 「と、とりあえず、もうじき夜が明けます。色々手配を進めるのはそれからに。薫さん、すみませんが、人数分の朝食をお願いできますか? ここの宿の料理人さん達には申し訳ないのですが、薬を盛られないよう用心のためです」 「分かったよ。別にいつもと変わらないしね」  巳鶴さんと薫くんが話している声が段々遠退いて聞こえてくる。  今の今まで興奮して眠気なんか吹っ飛んだと思ってたのに、そうじゃなかったらしい。  安心できたせいか、一気にぶわっと来た。眠気が。 「……っとと」  一瞬意識がフッと抜けて、前のめりになったところを綾芽が受け止めてくれた。  でも、もう目を開けてるのも辛い。 「こちらに」 「はぁ。別にえぇですけど」  背中と膝裏に手を当てられ、抱きかかえられた。  ……あ、お母さんの好きな花の匂いだ。  ってことは、これ、アノ人? やだなー。  でも……ねむい。もういっか。だれでも。おふとんつれてってくれるなら。 「……重いな」  ほんと、あとでおかあさんにいいつけてやる。  眠りの神様がいるのであれば、私はとうとうその神様に白旗をあげた。  朝ご飯だと起こされるまで、まさかのアノ人によるお座り抱っこでグースカピーピーと眠ることになった。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!