前章

2/7
88人が本棚に入れています
本棚に追加
/294ページ
 過疎化の進む村において、大事件という物はなかなか起こらない物である。それは、S県にあるこの上戊子(かみぼし)村においても同様だった。たぶん村全体が知り合いであるという事に起因するのだろう。何か事件が起これば、それはすぐに村中に知れ渡る事になり、そして、誰が犯人であるのか、たとえ警察には分からないとしても、村の人間にはそれが誰の犯行であるのかすぐに分かってしまう。それだけお互いがお互いをよく知っているそういう社会が構成されているのだから、事件を起こすという事に心理的な抑制が効いてしまうのだろう。  もちろん、些細ないざこざや暴力事件はあるだろう。自制の効かなくなった人物による喧嘩や傷害、はたまた窃盗といった事件は過去に数度あった事が記録として残っている。しかし、大事件となると話は違う。そのため、当時十六歳だった少女が突然姿をくらましたというその事件は大きな衝撃となって村中を駆け巡った。
/294ページ

最初のコメントを投稿しよう!