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「恵ちゃん?!何処か痛いの?!」
姉貴の焦った声に、はっと顔を上げた。
恵の頬を、涙が伝っていた。
「恵…っ」
慌てて離れようとした俺の、背中に小さな手がきゅっと獅噛み付く。
「ううん。痛くないよ。暖かくて……嬉しいんだ」
胸が苦しく締め付けられた。
あの夜。
一ヶ月以上振りに恵に触れて、抱き締めてキスした時。
「嬉しい」と恵は涙を流して、幸せそうに笑った。
あの時だって俺は、ちゃんと恵とやり直そうと思った筈なのに。
それなのに直ぐにまた恵を独りにした。
こんなにも恵は、俺の行動一つに感情を大きく揺らしていたのに。
恵はずっと俺に獅噛み付いたままで、姉貴が恵の従兄弟と話してくれて、今夜はこのまま恵と一緒に寝てもいいと云ってくれた。
俺の着てた服が硬くて恵を傷付けるといけないからと、部屋着を貸して貰った。
着替えようと少し離れただけで、恵は不安そうに泣きそうな顔になる。
全部忘れてしまった今の恵は、真っ白な子供みたいなもので、少しの感情の変化が直ぐに顔に出る。
今までだって本当は、笑顔の下に色んな感情を隠して堪えて来たのだろう。
ちゃんと見ていれば、気付けた筈だった。
いつから俺は、恵の事を見なくなってしまっていたのだろう。
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