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24:30 西麻布
夜カフェ「運動列車」の
閉まっていても閉まっていないようなドアを開けると、
カウンター席はいつもの常連で半分埋まっていた。
タバコの匂いと埃っぽさ。
どちらも苦手なはずなのに、
ここに来るとちょっとホッとした様な気持ちになる。
昔近所の飲食店が閉店する時に譲り受けたという
おでんの鍋からは
暖かい湯気と出汁のいい香りが漂っていた。
リカは曖昧な笑顔を浮かべつつ、
エビスビールを頼み500円玉をおでん鍋の蓋にパチっと置くと、
そっと他の客を盗み見る。
あの人何回か会ったことあるな。
いつも他の客と話しても名前を忘れてしまうが、
何度も会いすぎて今更聞けないのもいつものことだ。
何ちゃらスクールの先生をしているとかいう年下の女性と、
ネイルサロンの店長をしている年上の女性、
そしてもう潰れているのか突っ伏して寝ている50代ぐらいの男性は
恐らく同じビルの飲食店の店員だったような気がする。
客とスタッフのユミカとの会話で
三人の客の呼び名を思い出して、
リカはホッと胸を撫で下ろす。
女性客二人とユミカが、
恋人の話や、西麻布の噂話で盛り上がっているのを聞きながら、
26時過ぎにはユミカと話せるだろうか。
チラリと左後ろの壁時計を眺め、残りのビールを流し込んだ。
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