701

7/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「結局、お兄さんが亡くなってしまった真相はわからないままだったわ」 伸びていた木陰が次第にベンチを離れ、いつの間にか陽の光が身体に降り注がれていた。 「じゃあ、君の半分は、そのお兄さんで出来ているってことか。今までも、これからも」 話を聞き終わると、彼はまた視線を噴水に戻した。 ちょうど時計の長針が12で止まったからなのか、噴水は先ほどよりも空高く水を吹き出した。 「でも、お兄さんは私の中で生きている。そう思っているの。 そのおかげで貴方とも出会えたのだから」 しばらく彼は空を舞う水しぶきを眩しそうに眺め、それからゆっくりと口を開いた。 「なら、そのお兄さんに感謝しなくっちゃな」 その言葉には、全てを包み込むような優しさを含まれていて、緊張が一気にほどけていくのを感じた。 彼はそのまま立ち上がると、 「僕たちも水を触っていかないか」 と無邪気な笑顔でそう言った。 「もう、子供じゃないんだから」 そうして、二人でその場を後にした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!