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この映画は当りだ。
主人公の爽快なアクションがカッコよく、随所にハラハラドキドキする展開が盛り込まれている。
もうすぐクライマックスだろう。目が離せない。
喉の渇きを覚え、コーラを手に取り流し込んだ。
……あれっ?
コーラなんて買ったっけ?
スクリーンに釘付けだった視線を右下に落とすと、僕の買ったサイダーが置いてあった。
そのまま左側に視線を移すと、一気に半分も飲んでしまったコーラが置かれている。
……
……
どうやら、隣の人のコーラを飲んでしまったらしい。
恐る恐る目線を上げ、隣の人を確認する。
アロハシャツでスキンヘッド。髯を生やし、二の腕には龍の入れ墨があった。
……ヤバイ。完全に堅気では無い。
幸いな事に、映画に夢中でコーラの存在を忘れている様だ。
どうする? 新しいのを買いに行くか?
駄目だ。こんな時に限って、ど真ん中の席に座っている。クライマックスで立ち上がったら目立ち過ぎて、隣の人がコーラの存在を思い出すかも知れない。何より、このタイミングで動いて因縁でもつけられたら最悪だ。
考えろ、考えるんだ。生き延びる方法を……そうだ! 僕のサイダーは残り半分。隣の人のコーラも残り半分。飲んでしまった分をサイダーで足せばいいじゃないか。暗いし、この人なら気付かない気がする。
「大胆な事を考えるのう……」
なんか呟いた!
映画の事だよな? 一瞬、心を読まれたかと思って心臓が飛び出しそうになったぞ!
やるなら今しかない。素早く、そして慎重に……
「こそこそしやがって……踏みつぶすぞ」
映画の事ですよね!? 映画の悪役に対して呟いたんですよね!?
もう少しで終わる……よし、終わった!
そう思った次の瞬間、隣の人が勢いよく立ち上がった。
バレたのか!? 僕の人生は終わったのか!?
固まって動かない僕を見下し、無理やり腕を引っ張る。
もう駄目だ。父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください。
「さあ、兄ちゃんも」
「へっ?」
隣の人が拍手を始める。周りを見渡すと、スタンディングオベーションが巻き起こっていた。
やがて拍手は収まる。
隣の人は腰を下ろし、半分サイダーのコーラを口に含んだ。
「終わり良ければ全て良し……見事なクライマックスだったな」
「……本当に、そう思います」
その返事は、心からの声が零れたものだった。
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