プロローグ① 『英雄戦争』

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プロローグ① 『英雄戦争』

   イーテル宮殿。  世界最大かつ、最も幻想的な建築物として存在するこの宮殿は、ルーヴェン帝国王宮としても親しまれている。六階層造りで上にいくにつれ徐々に小さくなっているが、最上層である六階層でもそこら辺の宮殿の敷地面積と同等の広さを誇っている。  そんなイーテル宮殿第六階層、玉座の間。第六階層の約二分の一を占めるこの広大な一室は、ルーヴェン帝国代々の皇帝が居座ってきた場であった。  雲よりも純粋な白で塗られた壁。  血液とはまた違う、高貴な朱に染まったカーペット。  天井にはシャンデリアが空に浮く。  他国からの間者に権力を見せつけるために、この部屋は他の部屋に比べ貴賓で、輝かしい。なかでも目を引くのはーーその黄金の椅子だろう。  金と言う金を敷き詰めて体を成すそれは、正に権力者の象徴といっても過言ではない。更に異様に大きく、この豪勢な空間の中でも一際目立っている。  下町の商人や農民が足を踏み入れれば、その輝きに目を眩ますことだろう。  しかし、この高価で豪勢な椅子はーー瞬く間に寿命を迎える。    ーーゴオォォンッ!  突如発生した轟音。震え上がる純白の壁。カーペットは吹き跳ばされ、シャンデリアは悲鳴をあげる。  気付けば権力者の象徴は姿を消しており、代わりにそこには巨大なクレーターができていた。 「話を聞けよ! 俺は被害者なんだって!」  角を生やす青年は、体の軸を地面と平行に壁を駆け抜ける。それを追うのは、有り得ない速さで走る眼鏡の中年男性。  男は青年の訴えに耳を貸さず、右手に握った剣を一気に振り下ろした。  すると空中に引かれた軌跡は実態を帯び、青年向かって空気を裂いていく。凄まじい速度で走る軌跡は徐々に大きくなっていきーー  青年の背後に迫ったときには、既に巨大なソニックブームと化していた。  青年はそれを一瞥すると、掌を向け、瞬時に氷にも似た色の魔方陣を三つ重ねて展開する。 「《竜氷》(ノース・オブ・ドラゴネイト)」  放たれる咆哮と、圧倒的質量。    大気は震え、風の抵抗は全て凍てつき意味をなさない。  現れたのは"恐怖"を具体化した、氷の竜だった。  竜は軽々と衝撃波を飲み込み、そのまま男へ突撃する。空気は結晶と化し、周囲の温度は易々と氷点下になっていた。
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