プロローグ 罰当たりな結婚式

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 白一色の花嫁衣装に身を包み、窓越しに晴れ渡った空を見上げたセレナは、花嫁には似つかわしくない沈鬱な表情で、小さく呟いた。 「とうとう、この日が来てしまったわ……」  それからは現実逃避をするが如く、窓の外を眺めながら佇んでいた彼女だったが、すぐに容赦なく、現実が形となって現れた。 「セレナ。昨日はあれだけの荒天だったのに、今日はこれ以上は無いくらいの晴天に恵まれたのは感激です。まさに神のご加護としか、言いようがありませんね。神は私達の挙式を、祝福してくださっていますよ?」  こちらは白を基調としているものの、所々金銀で飾り立てている正装を纏った花婿が、申し訳程度のノックと共に現れた為、セレナは虚ろな目をしながら振り返った。 「ご加護……、ですか。寧ろ神様が罰を与える為に、後から雷でも落としそうな気がしますわ。晴天下の方が効果的でしょうから」 「セレナは、おかしな事を言いますね。神が一体、何に対して怒ると?」  近くまで寄って来た本日の花婿たるクライブが、クスクスと笑いながら問いかけると、セレナは一応ドアが開いていないかを目で確認してから、精一杯声量を抑えながら相手に訴えた。 「だって私達、女同士で結婚するんですよ!? 神聖な教会で大嘘を吐くなんて、神様に激怒されるのに決まっているじゃありませんか!」  その非難にもクライブは笑顔を崩さないまま、明るく言い切った。 「セレナは相変わらず可愛いですね。ですが、怒られる筈がありませんよ。神なんて存在していませんし」 「クライブ様!? そんな罰当たりな!」 「そもそも宗教と言う物は、個々の人心を救う為と、施政者の民衆掌握の手段の一つとして存在しているだけです。それが無くても良い、とまでは言いませんが、不必要に恐れ敬う必要は無いでしょう」 「ですが!」 「第一、私とあなたが結婚する事で私の秘密が守られて、母である王妃と、我が国と王妃の祖国との関係悪化が防げる上、あなたが理不尽な縁談を押し付けられず、レンフィス伯爵の領地と爵位も、少しの辛抱で無事にあなたの弟に継がせる事ができる。良い事ずくめですよね?」 「確かにそうですが!」 「これだけ万事丸く収まるのに、神が何を怒ると? 数多の人間が幸せになる事を非難するなど、もはや神などではありません」  一応反論しようと試みたセレナだったが、ここで潔く諦めて非難の矛先を変えた。
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