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ーーー キューシャは、家の下に作っている隠し部屋に駆け込んだ後、すぐに引き返して自宅への道を急いでいた。靴音が地面に薄く張った雨をはじく高い音が、さらにキューシャの焦る気持ちを煽る。 彼が隠している自室に向かったのは、信頼している同期に緊急事態を伝えるためであった。早歩きの振動で、ポケットに入った識別メダルがコロンコロンと跳ねてキューシャを笑う。つい先ほど聞いたサイの慌てた声が、脳内でも何度も再生された。 『三人を隠して! 彼らをできるだけ家とは関係ない場所へ!』 跳ねた雨に濡れた靴が、ナトリウム灯の明かりでてらてらと光る。まったりと話していないサイの声は、他の人が声を張ったときよりもはるかに鋭いようにキューシャには聞こえた。 「……」 『どこかの班の研究員たちらしき数名が、ゴンドラを出して中層にとびこんでいく様子を見たという話を聞いています。さっきの君の話を聞くと、ボクは結構嫌な予感がするのですが』 「……」 連絡をとっていたときにパイプを持っていた右手がじりじりと熱くなる。さきほど家まで訪ねてきた隊員は、自分のことを何と名乗っていたのか思い出そうと記憶をたどるが、結論が出る前に家の影が見えてきた。
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