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「ねえ、昂くん・・・昨日の手紙、何て書いてあったの?」
「ああ・・・どうやら、近々日本に来るみたいだよ。」
「フィリップ教授が?」
「うん。後は、ニューヨークに良い寿司屋が出来た、っていう報告があった位。特に何っていうほどでもなかったよ。」
「・・・そう。」
『一緒にアメリカに帰りましょう。』
最後に記してあったクダリは、あえて言わなかった。
そもそもオレにはその気がないし、アオイの浮かないを顔を見るのもイヤだったから。
でも、フィリップ教授から話をされているせいか、彼女の心配は尽きないようで・・・
「昂くんは・・・どうしたいの?」
「どうしたい、って?」
「昔から、ずっと言ってたじゃない。アメリカの大学に行きたい、って。もし、今でもそう思っているのなら・・・」
「行かないよ。」
オレは、不安げに覗き込むアオイを見つめながら、きっぱりと言ってやった。
だって、オレには、まだ何も・・・
「・・・へッ?」
「まだ、何も手に入れてないから。大事なモノをこっちに残したまま、アメリカには行かない。」
言葉とともに、チクリと胸が痛んだ。
どうにも出来ない、オレの思い・・・
アオイは、そんなオレを見つめながら、ホッとしたような顔で小さく息を吐いた。
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