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宇宙人からの手紙
僕は空をみあげる。
今は真っ暗だ。僕のむきだしのほっぺたを刺すようにつめたくて、砂金のように光る天体をうかべてはいない。ブラックコーヒーにミルクを垂らしたみたいな白い雲の輪郭だけが見える。
それでも僕は呼びかける。
お星さま。雲の上のお星さま。もしほんとうに願いをかなえてくれるなら、僕を一日だけ頭のいい子にしてください。
みんなを困らせない、頭のいい子にしてください。
「さとる、こんなところにいたの?」
とげとげしい声がきこえた。聞き慣れた声、僕の姉の声だ。怒っている。
草地にひざまずいてお祈りしていた僕は、立ちあがってふりかえった。姉さんは傘をさしていた。それを見てはじめて、雨が降ってるんだ、と気がついた。
姉さんの後ろには、母さんがいた。
「さとる、よかった」
そう言うと、母さんは安心したのか、へなへなと座りこんでしまった。顔色は青白くて、疲れきった表情をしていた。洋服がぴったり体にはりついて、パーマをかけた髪は濡れて変なかたちになっていた。
「お母さん、どうしたの? なんでそんなに濡れてるの」
僕が思わずくすっと笑うと、次の瞬間、地面にあおむけに倒れていた。
ぴしゃっと水がはねる音がして、背中のほうから泥くさいにおいがした。右のほっぺたが火傷したみたいに熱い。
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