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その後、俺は母に連れられて美咲が入院することにな った病院へ向かった。 美咲は真っ白な部屋の中で辛そうにしていたが、俺が 来たことに気づくと気丈に振る舞って見せた。 「……そんなに心配しなくていいよ」 そう言った彼女の息は荒く、“大丈夫”とは程遠く感じ た。 「悪い……俺」 「あれ?」 美咲が何かに気付いて俺の顔に手を伸ばして触れる。 「……あかく……なってる……いたい?」 「別に……」 「……ボールとか当たったの?冷やさないと……ね」 そう言ったかと思うと、美咲は胸で息をしながら眠り に入っていた。 痛かった。 頬の痛みより、胸の痛みが。 俺さえしっかりしていれば 今頃、楽しく誕生会をしていた筈なのに 美咲は俺を責めなかった。 それどころか 俺の怪我を心配していた。 美咲は“色んな人に迷惑をかけながら生きている” そういうニュアンスの事を時々言っていた。 だからだろう。 美咲はいつも感謝の気持ちを大切にしていた。 こんな時でさえ、俺を気にかけていた。 それを俺は知っていた筈なのに 彼女の手を振り払ってしまった。 「ばか……やろう」 自分自身に向けた言葉が口から漏れる。 涙が出た。 母に叩かれても出なかった涙が、こぼれ落ちた。 俺は美咲の手を握った。 「……ごめん……」 その時、決めたのかもしれない。 美咲を守ろうと。 美咲が背負っているものの半分を 俺が一緒に背負ってやろうと……。 いつか、美咲が俺から離れていってしまう それまでは。 そう、子供ながらに思っていた。 美咲はそれから2週間入院した。
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