夏目漱石 「こゝろ」

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「本当は怖い夏目漱石の「こゝろ」…」  スガリ君こと、結城登の感想文は続く。  お茶を一口飲んでやっと心が落ち着いてきたふみは最後の原稿用紙に手を伸ばした。 「〝遅くなったが、私の読後の感想を述べたい〟」  ふみは目を丸くした。丸くしただけで済めばよかった。   「〝この作者、できる〟----いや相手夏目漱石だからね!!?」  廊下に聞こえそうなほどの大声が出た。  近代日本文学の父といってもいい相手になんて偉そうな口を聞くのだこの高校生は。そもそも怖がらせたいのか笑わせたいのか。もう滅茶苦茶だ。  どこまでも斜め上を行く感想文に、家庭科教師は頭を抱えた。 「もー…」  ふみは牛のような声を上げながら先を読み進める。  個性的な読書感想文は、登の落ち着き払った声で自動再生されていた。   「〝冒頭申し上げた通り、この作品は部屋の間取りや、自殺の夜の出来事が非常に読み取りづらく書かれている。私はこれが作者が意図して行ったことなのだと確信している〟…。…?」  苦虫を噛んだような顔が少しだけ引っ込んだ。ふみの目は、角のはっきりした文字の並びをなぞっていく。 「〝人の本性は些細な行動や痕跡に反映され、世界に散りばめられている。「K」が自殺した夜の描写のように。落ち着いて目を凝らした者にだけ、相手の本当の「こゝろ」が見える。そう、夏目漱石は言いたいのではないだろうか?〟」  なかなか読ませる文章だ。  ふみはやっと感心した。 (部活にしたいだけはあるってことなのかしら…)
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