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 夜はすっかりと暮れている。  車を道の脇に止めた。ここから先は徒歩で行くのだ。  わたしたちは夜道に身を踊らせた。山道は闇に包まれている。怖くはない。天には数多の蛍が瞬いている。  虫の音。あれはスイッチョ、キリギリス。コオロギ、鈴虫、松虫もいる。幽かに聞こえるのは梟か。土を踏みしめる、草履の音、二つ。  大ちゃんは何も言わなかった。わたしも言う必要がないことを知っていた。さやさやと渓流の音が聞こえる。木の葉のざわめきと川のせせらぎが、まるで潮騒のようだ。  見上げれば星空。零れんばかりの空の蛍。すう、と光が流れる。あれは流れ星。違う、蛍だ。黄緑色の尾を引いて、蛍が一匹。付いてこい、と、わたしたちを導いている。  やがてたどり着いた渓流は、まるで時間が止まっているかのようだった。蛍が水面を黄緑色に染め上げて、飛沫にすら星々が宿っているかのごとく、何もかもが、きらきらと光っている。  わたしたちは、川辺の岩に腰掛ける。並んで腰を下ろすと、また、手を繋いだ。  蛍。  蛍。  蛍。  あちこちで灯る、魂の色。 「すごい」  蛍が舞う。しんしんと、天の星が地に落ちてきたかのように。 「お星さんが……笑ってる」  そういうと、大ちゃんは軽く目を見張り、ややあって笑った。  天も地も、星も、蛍も、渓流も、岩も。父母も、養母も。あの汽車も、車も、フロントガラスに当たった蛾も、そして、わたしも。大ちゃんも。何もかもが、みんな一緒になって、きっと天を駆けるのだろう。 「最後に、見れてよかった」  わたしも、大ちゃんも、もうすぐそちらへ行くだろう。  あの空の蛍になって、そして。  きらきらと、地上を、見守っていくのだろう。
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