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 降るような蝉の声に包まれながら、わたしは汽車を降りた。背後で扉が閉まる。ここが終点。他に客はなく、ここからの乗客もひとりもいない。無人のプラットホームに、わたしばかりがぽつねんと立っている。  もうじき陽が沈むのだろう。差し込む茜が駅の柱の影を長く伸ばし、黒のコンクリに濃い陰影を描いている。ツクツクホウシの説法に混じり、かなかなと相づちを打つのはヒグラシか。夕暮れの赤と、影の黒。コントラストに眩暈を起こしそうで、わたしは大きく息を吸い込んだ。濃厚な緑と、土の香が、胃の腑に溜まっていく。  鞄を持ち直し、改札へと歩を進めた。外で、大きく手を振る影。逆光で顔は見えない。それでもその背格好から、大ちゃんだと見当がついた。蝉の音が、耳の奥でわんわんと鳴っていた。
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