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孵る寸前のさなぎのような揺れかただった。
☆
この片田舎――『龍冠(りゅうかん)』に越してきたのは僕の身体が弱かったからだ。空気が良いと評判だったのだ。
父が運送会社のトラックに轢かれて死んで三か月が経っていた。賠償金と保険金で潤った家計に母はここに引っ越すことを決断し、ボロ家を買い上げた。
引っ越しの荷物の整理も終わり、転校初日を迎えたわけだけど、なんだこれは。
ふつうに授業は進んでいる。女の子はとくに授業を聞くでもなく、筆記具も教科書もノートのひとつもなく、教室を見回したり、窓の外を眺めたりしている。英語教師は注意もしない。
その次の数学教師もまるで無視しているようだった。
二時間目が終わり、放課に委員長の女子生徒が話しかけてきた。
簡単な挨拶を交わし、どこから来たのかとか、どうして来たのかなどと訊ねられて、僕は答えた。
「来たばかりで慣れないことばかりだろうけど、何かわからないことがあったら聞いてね」
と、最後に言い置かれて、僕は思い切って訊ねる。窓際最後尾の後ろを指し示す。
「あの子はなんなの? 授業を受けているふうでもないし」
委員長は僕が指し示したほうを見やる。
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