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そこまで考えていたとき、ふと頭に何かが引っ掛かった。 有り余るほどの富。 あってもまず困らないそれを、否定する自分がいることに違和感を覚える。どうして。 ふと、壁掛け時計を見やると、夜の9時を回ったところだった。一人暮らしを始めたときに、母が私に買ってくれたもの。木を象った、定価4千円程度のその時計の方が、手元にある腕時計よりも私にとってははるかに大切なものだった。 それから、毎月どうやら決まった日に謎の贈り物が届いていることに気が付いた。毎月、3日。仕事や用事で家を空けていても、不在票は入っていた。 6月3日。それは初めて謎の贈り物が届いた日。その日にもしかしたら手掛かりがあるんじゃないかと、私はパソコンに向かっていた。今年だけでなく、なんの見当も付かないまま、ただただ日付を頼りに検索し続けた。 都心の通り魔殺人事件、大企業の社長の病死、高速の玉突き事故。つい過去のニュースを見ていると、そんな暗い記事ばかりが目に入るが、大河内 楓という名はどこにも見当たらなかった。 「あ…」 私は一番最初にすべきことをしていなかったのに気付く。 「おおこうち、かえで…」 今は名前を検索すれば、何かしらの情報が分かるような時代になっている。こんな高価な贈り物をしてくるからには、送り主もきっと資産家だろう。何か情報があってもおかしくはない。そう思い、画面をどんどんスクロールしていく。しかし目ぼしいものは見当たらなかった。 いつの間にか没頭していたことに気付いたのは、母から鳴った携帯電話の音のせいだった。 「お母さん、どうかしたの?」 「どうかした、じゃないわよ。あんたここ最近、忙しいってろくに連絡もしないで。元気にやってるの?変わったことはない?」 まくし立てるように言う母の声が、なんだか随分と久しぶりに聞こえた。 「あ、ごめん。元気だよ。変わったこと…あ」 そこで、まだこの不思議な出来事を母に話していなかったことに気付く。はじめは心配を掛けたくなくて、あとはそのまま何となく。 母は私のその反応に、心配そうな声を上げた。 「桃子?」 「いや、変わったことっていうか…変な贈り物が届くようになったの」 「変なってどういうこと?」 「うん」
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