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夕方になってもまとわりつくような暑さが続く中、依知花(いちか)と翔(かける)は砂場にしゃがみこみ、黙々とプリンやゼリーの空き容器に熱せられた砂を押し込んでいた。
砂場といっても、立ち並ぶ賃貸アパートの隙間に作られたコンクリートブロックで四方を囲まれただけの簡素なもので、砂場以外の遊具はない。でも、公園から遠いこのアパートに住む子供達にとっては貴重なスペースだった。
目立つことを嫌う依知花は、しゃがむと大人達からは見えなくなるこの砂場がお気に入りで、翔が依知花と遊ぶ時はいつもこの砂場だった。
「あぁ、もうダメ。どうしても崩れちゃう」
ゼリーの型をなさず、ただの砂山となったものを見下ろしながら依知花はいらだたしげにつぶやく。
先ほどから綺麗なゼリー型の砂を作ろうと、容器に力いっぱい砂をつめこみパッとブロックの上にひっくり返しているのに、乾燥しきった砂は容器を外したとたんほろりと崩れてしまう。
「やっぱりちょっと水がいるんだよ。僕とってくる」
そう言うなり、翔は、依知花の返事も聞かずに自分の家があるアパートへと駆けだした。
依知花はこのアパートではなく、ちょっと離れたマンションに住んでいる。さすがにマンションまで水を取りに行くことはできないから、こういった時はいつも翔が取りに帰っていた。この砂場道具も全部翔のものだった。
砂をもっと強く押し込めばいいのではないか。深く掘ったところの砂を使えば固まるのではないか。翔の帰りを待つ間、依知花は試行錯誤しながら砂を詰め込み続けた。
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